オキナビGLOBALコラム

技能実習生および特定技能外国人を採用する場合の労働法について

外国人を雇用する場合の労働法について

一般的に農業や漁業、建設業務などといった技能労務業務(現業)に外国人が就くことは原則禁止(永住者や日本人の配偶者等といった就労制限のない方を除く)されていますが、例外的に外国への技術移転による国際貢献を目的とした技能実習制度や、2019年4月にスタートした「特定技能」在留資格において、一部の職種において条件付きで現業業務に従事することが可能となっています。

技能実習制度については研修が目的ですが、「特定技能」在留資格は人手不足解消のための労働力確保と目的が大きく異なっています。

しかしながら双方とも日本の労働基準法などといった労働社会保険関係の法律が全面的に適用される上、技能実習生や特定技能外国人独自に適用される法令も少なくないため、そのことを理解することは非常に重要であると言えます。

1.労働時間及び休日、休憩時間について

農漁業は例外的に労働基準法のうち、労働時間・休日・休憩時間については適用除外だが、技能実習生に関しては原則通り適用。
特定技能外国人(農漁業に限る)については、原則通り適用除外。

①労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内(法定労働時間)
②休日は原則として毎週少なくとも1回付与(法定休日)。それ以外の休日は「所定休日」。

(例1)1日8時間勤務の場合

合計
法定休日8H8H8H8H8H

所定休日

40H

(例2)1日7時間勤務の場合

合計
法定休日7H7H7H7H7H

所定休日

40H

(例3)1日7時間勤務の場合

合計
7H7H7H法定休日5H7H

7H

40H

 

③ シフト勤務等の場合は変形労働時間制も活用可能。

 ・1週間単位の変形労働時間制
 ・1ヵ月単位の変形労働時間制
 ・1年単位の変形労働時間制

一定条件(労使協定締結または就業規則等に記載、シフトを事前に確定、1年単位においては労使協定締結、年間カレンダー作成及び労基署への届出など)のもと、上記の単位ごと(1週間、1ヵ月、1年)に平均週40時間以内であれば、1日8時間週40時間を超える勤務が可能となります。

1)1ヵ月単位の変形労働時間制の場合、以下の時間内であれば(事前にシフト表等で確定させる必要あり)、1日8時間、週40時間を超える勤務が可能です。

【計算方法】40×変形期間の歴日数/7

月間日数労働時間の上限
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165.7時間
28日160時間
  • ・シフト外の勤務の場合、その時間を含めた合計が、たとえ上記の上限時間内であっても当該時間は時間外勤務(残業)となります。
  • ・妊産婦が請求した場合は、適用不可(原則通り1週40時間、1日8時間以内となる)

2)1年単位の変形労働時間制の場合の注意点等は以下の通りです。

・労使協定締結及び年間カレンダーを作成し、労基署へ届出
年間カレンダーで定めた労働日や労働時間、休日などについて原則変更できない
・平均週40時間以内とする(週44時間の特例は適用されない)
・1年間の労働日数の上限が280日(休日日数を85日以上とする)
・連続労働日数は6日まで(特定期間がある場合は12日まで)
・1日10時間、1週52時間が限度
・週48時間を超える勤務は連続3週以内
・週48時間を超える勤務は年間で9回まで
・年間所定労働時間は2085.71時間以内
・妊産婦が請求した場合は、適用不可(原則通り1週40時間、1日8時間以内となる)

⑤ 休憩時間について

・6時間を超える勤務の場合は最低45分、8時間を超える勤務の場合は最低1時間の休憩時間を付与。
・休憩時間は労働時間ではなく、勤務時間から控除可能。
休憩時間は、労働から完全に解放される(労働者が私用で外出できる等)必要あり。例えば、休憩時間帯の電話当番を指示することはできず、たとえ電話がかかってこなかったとしても労働から解放されているとは言えないため、その時間帯に電話当番をした場合は勤務となる。
・農漁業は本来適用しなくてもいいが、技能実習生に関しては適用。ただし特定技能外国人(農漁業に限る)については適用しなくていい。

2.賃金

名称のいかんを問わず、労働の対償として支払われるもの。各種手当やボーナスも賃金。

1)通貨で、
2)全額を、
3)労働者に直接、
4)毎月1回以上、
5)一定の期日を定めて
支払わなければならない。

・源泉所得税や住民税、社会保険料など法律に基づき徴収されるものは、当然に控除できる。
・それ以外の控除については労働組合または労働者代表者(場合によっては対象労働者個人)との労使協定(「賃金控除に関する協定書」)に基づき徴収可能(例:労働組合費、駐車場代、家賃、借入金返済など)

3.時間外手当、深夜手当、休日手当について

残業(時間外勤務)、深夜勤務、休日勤務の場合は以下の割増賃金の支払いが必要。

①時間外勤務の場合(残業(早出含む)及び所定休日出勤
・・・25%(例)時給1,000円×残業5時間×1.25=6,250円

② 深夜勤務(22~5時)の場合・・・25%
(例)時給1,000円×深夜時間5時間×1.25=6,250円

③ 法定休日(最低週1回)の勤務の場合・・・35%
(例)時給1,000円×休日勤務8時間×1.35=10,800円

④ 月給制の場合は、月給÷月平均所定労働時間で時給単価を算出

例1)1日8時間勤務の場合

日(35%増)土(25%増)合計

8H
法定
休日出勤

8H8H8H8H8H

8H
所定
休日出勤

40H
+
時間外8H
+
休日8H

上記の例の場合、1週間で(1,000円×8H×5日)+(1,000円×1.25×8H)+(1,000円×1.35×8H)
=60,800円

例2)1日7時間勤務の場合

合計

法定
休日

7H7H7H7H7H

5H+2H
時間外勤務

40H
+
時間外2H

上記の例の場合、1週間で(1,000円×7H×5日)+(1,000円×5H)+(1,000円×1.25×2H)=42,500円

4.時間外労働、休日労働、36(サブロク)協定について

「法律で定めされた労働時間の限度」
1日8時間及び週40時間

「法律で定めされた休日」
毎週少なくとも1回

これを超える場合は、
36協定の締結・労基署へ届出が必要

① 残業をさせる場合、または可能性がある場合は36協定の提出を!!
② 時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として月45時間・年360時間。
③ 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、 2020年4月からは(大企業は2019年4月から適用)以下の通り。
・時間外労働 ・・・年720時間以内
・時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2~6か月平均80時間以内。原則である月45時間を超えることができるのは、年6ヵ月まで。
・法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断。

(厚生労働省パンフレットより)

建設業については2024年3月まで適用を猶予。ただし災害時における復興・復旧工事の際は猶予措置終了後も上限規制は適用されません。

5.休業手当について

会社の都合により(新型コロナウイルスの影響による経営不振はもちろん、元請等からの入金がない場合など会社側に過失がない場合も含む)休業させる場合は、平均賃金の60%の支払いが必要。大雨や台風、地震等の自然災害の場合は不要。

平均賃金とは直近3カ月間に支給されたものを基準にした1日当たりの賃金です。

(例1)
10月10日と11日に工事現場が元請の都合により2日間工事が中止となり、休業となった。
  末締翌月支給の場合・・・7月8月9月勤務分の平均賃金を出す。
  月給制の場合・・・7月180,000円(31日) 8月200,000(31日) 
9月170,000円(30日)
(180,000+120,000+170000)÷(31+31+30)
=5976.26×0.6=3586.95×2日=7173.9→7.174円 

(例2)
給与の一部または全部が時給制、日給制、出来高払制の場合
   最低保障のチェックをし、どちらか高いほうを適用

10月10日と11日に工事現場が元請の都合により2日間工事が中止となり、休業となった。

   末締翌月支給の場合・・・7月8月9月勤務分の平均賃金を出す。

            7月152,639円(31日。実働17日) 8月184,755円(31日。実働20日) 9月221,136円(30日。実働25日)

(152,639+184,755+221,136)÷(31+31+30)

=6070.97×0.6=3642.58×2日=7285.17→7,285

 

          7月152,639円(31日。実働17日) 8月184,755円(31日。実働

20日) 9月221,136円(30日。実働25日)

(152,639+184,755+221,136)÷(17+20+25)

=9008.54×0.6=5405.12×2日=10810.25→10,810

    Ⓐ<Ⓑ Ⓑを適用

 

6.就業規則について

常時10人以上の労働者を使用する事業所は就業規則の作成義務がある。作成や変更したときは労働者の代表の意見を聞かなければならない。就業規則は周知させることによって効力が生じる。見せないのはダメ

・絶対的記載事項

始業、終業時刻、所定外労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務をさせる場合の就業時転換事項、賃金の決定、計算、支払い方法、締め切り、支払い時期、昇給

退職に関する事項(解雇の事由も含む)

法令>労働協約>就業規則>労働契約

7.年次有給休暇

(雇い入れ日より) 2年で時効。雇用形態に関係なく取得できる。


6ヶ月後

1年
6ヶ月後

2年
6ヶ月後
3年
6ヶ月後
4年
6ヶ月後
5年
6ヶ月後
以後1年
経過毎

10日

11日12日14日16日18日20日

➀2019年4月より、年次有給休暇が年間で10日以上付与される従業員を対象に、最低年5日取得させることが義務。

②会社側と従業員代表者との協定(労使協定)により、年5日を超える部分について会社側が時季をして付与することも可能。

8.雇用保険、社会保険について

 ・雇用保険・・・週20時間以上かつ31日以上雇用見込み

          雇用保険料従業員負担分は総支給×0.003(農林水産業と建設業は0.004)

  ・社会保険・・・
a) その会社の所定労働時間(フルタイム)の4分の3以上勤務
b) 法人事業所は役員含めて加入義務あり・個人事業所は常時勤務5名以上で加入義務
c) 資格取得の際は、基本給はもちろん通勤手当等の固定的賃金すべてと皆勤手当およびある程度見込まれる時間外手当などの非固定的賃金を含めて、標準報酬月額を算出。
d)固定給の変動(手当の新設含む)、給与体系の変更(時給制から月給制など)があり、変更月から総支給額の3カ月間の平均額が現在の標準報酬月額の2等級以上の差が生じた場合は、標準報酬月額の変更手続(月額変更届の提出)をする。
e)保険料は歴月単位。日割りはできず、末日入社(取得)でも丸1か月分の保険料がかかる。

9.その他

➀ 建設業の技能実習生については、月給制とする必要がある(2020年以降に受け入れる場合)。

② 特定技能外国人については、職種を問わず月給制かつ銀行振込による給与支払い。

③ 特定技能外国人の雇用形態については直接雇用のみ(農漁業を除き派遣による雇用禁止)

③ 会社側による強制貯金厳禁。パスポートや在留カードを会社側が預かるのも厳禁!!

労働条件や給与計算方法等を説明(実習生から質問があった場合も)する場合は、通訳を通して説明する。

⑤ 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード等含む)は3年間の保存義務

⑥ 実習計画に虚偽や不正等があった場合だけでなく、労働社会保険諸法令に違反した場合にも、許可(認定)が取り消され、技能実習生の受け入れが5年間禁止される。特定技能外国人についても同様。

ポイントまとめ

・日本の労働法令等が全面的に適用!!

・農漁業については労働基準法の労働時間・休憩・休日については適用除外だが、技能実習生については適用除外ではなく、全面的に適用。

・36協定締結及び労基署への提出済みかどうか確認すること

・雇用保険・社会保険加入の確認

・雇用契約書通りの労働条件となっているか確認すること。家賃等を控除する際は会社と労働者代表者との間で「賃金控除に関する協定書」の締結が必要。家賃等については実費分のみ。

・賃金台帳及び出勤簿(またはタイムカード)をしっかり作成し、以下の労働時間や休日等のルール通りに時間外手当等が支払われているかどうかの確認をすること

・パスポートと在留カードは必ず本人保管(会社側が預かっては絶対にいけない!!)

この記事を書いた人

社会保険労務士・行政書士オーシャン事務所
合同会社オーシャンオフィス大城
代表 社会保険労務士
行政書士 大城 恒彦

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